さて、我がマンションへのBフレッツ導入記も第2回目。前回の予告どおり導入への待ちが3年にも渡った経緯を中心に原稿を進めていきたいと思う。
■ マンションでの導入は管理組合をいかに篭絡するかだ!
前回の最後に、3年前の申し込み時点で担当基地局である青山局から筆者宅のある明治通りまで光ケーブルがまだ敷設できておらず、それを引くまではサービス提供ができない、とNTTに言われたという時点で話を閉じた。そこで筆者としては、NTTに光ファイバの敷設を優先してもらうために、先に管理組合の内諾を取ってマンション内に光ファイバを引き込む環境を整えてしまおうと考えた。ここで重要になるのが「管理組合、ならびにマンション管理会社といかに交渉をするか」だ。そして、極力早く、障害少なく工事へと持ち込みたい筆者としては、通常の手法をとるのはやめにした。
通常、一般的なマンションへ光ファイバ敷設を行なうとすると以下のような手順を踏むことになるだろう。
1)管理組合の総会に出席し、議題として光ケーブル敷設の話を提案
2)総会へ予算の見積もり、工事期間、負担金の割り当てなどの書類を提出
3)導入への決議をとって、工事承認、発注
4)工事開始。終了後NTTへ光ファイバの引き込み依頼
5)引き込み工事と平行してマンション内での運用ルールの策定
6)祝!! 光ファイバ開通
実際にこれだけのことを真面目に真正面からやろうとすると、数カ月から半年は余裕でかかる。特に総会が一番のネックで、マンション自治の意向が強いところだといろいろな人が参加しており、これらの人々の疑問や反対を片っ端から論破していく必要がある。
たとえば、光ファイバがなぜ必要なのかという根本的なところに始まり、月にいくらぐらいかかるのかというランニングコスト、必要のない人が工事費用を負担する必要はあるのかという導入負担に関する懸念――と、言い出したらきりがない。この説明や交渉を導入したいと切実に願う入居者が1人でやろうと思っても、そのとてつもない労力に挫折するのがオチだ。USENをはじめとする独立系の光事業者が、営業活動の一環としてこういった管理組合への説明や交渉を代行しているのも無理からぬところだろう。
この面倒ごとを筆者はいかに潜り抜けたか。それはトップ交渉による各個撃破方式の採用である。我がマンションの管理組合は、入居者の多くが法人ということもあって、いざ総会になるとそのほとんどが委任状を提出してしまう(住人の多くも委任状を出したりする)。そのため、管理組合の運営は管理会社の代表も含めた約10人ほどが構成する管理理事たちの合議で決められることが多い。
この事実を前々から知っていた筆者は、この状況を最大限に利用することに決め、管理組合長との直接交渉でこれを落とし「組合長が前向きに考えている」というアドバンテージをとることにした。これが思ったより効率的で、組合長自身が新しもの好きという要素はあったものの、「現在のインターネット社会において、光ファイバを入れるとマンション自体の価値が上がる」というテーマで1時間ほどの交渉を行なった結果、あまり費用がかからなければという条件付きながら光ファイバ導入にOKが出たのだ。
筆者のマンションの場合、管理組合がほとんど理事だけで運営されているという特異な部分はあるものの、「自分のマンションの管理組合がどのように運営されているか」、「管理組合運営上のキーパーソンは誰なのか」というのを把握した上で、キーパーソンに対して「光ファイバを導入することは、将来的に見てもプラスになりこそすれマイナスには絶対ならない」ということを主張しておくと、後々の導入交渉がかなり楽になるはずだ。
発言権の強い人に個別アタックをかけ、各個撃破で自分の側に引き込んでおくという成功へのプロセスは、国も会社もマンションもたいした違いはないのだなぁと妙に納得してしまった筆者であった。
■ 土壇場のどんでん返し! NTT指定の業者以外は基礎工事もお断り!?
ということで、早速基礎工事(光ファイバ自体の敷設はNTT側の業者が行なうので、ユーザー側は光ファイバ敷設部分の基礎工事を行なうことになる)の見積もりを取ることになるのだが、この話が始まった3年前はまだ光ファイバの敷設が始まったばかりの時期で、光ファイバの導入はどこも手探り状態だった。
工事を安く上げようにも、周囲の業者はどこも光ファイバの敷設経験なんてないところばかりで「昭和40年に建てられた13階建てのマンションに、光ファイバを引くための基礎工事を依頼したい」と言ってもまともに取り合ってくれるところは少なかった。
そんな中、唯一話を聞いてくれたのが、ネットゲームをやっていて知り合った電気屋さんであった。彼も光ファイバ敷設の経験はあまりなかったのだが、その後の光ファイバ敷設ラッシュを見込んで、早いうちに経験をつむ意味も込めてぜひ工事をさせてほしいと言って来た。未経験な分工事料金も安めでいいということだったので、管理組合長との条件を考慮に入れなければいけなかった筆者としては、そのまま基礎工事をお願いすることになった。
とはいっても、どのような基礎工事をしていいものかがはっきりわからないので、NTTの光ファイバ敷設担当の人を交えて、どういった形で工事を行なうかの打ち合わせを何回か持つ事となった。そして打ち合わせも終わり、工事見積もりも想像以上に安く(3年前のことで細かい数字までは覚えていないが20万円弱だった気がする)上がり、管理組合長の許可も受け(要するに「あまり費用がかからなければ」という条件は管理組合長個人の裁量で動かせる範囲に抑えたいという意思だったようだ)、いざ発注という段階になってNTTから急遽電話がかかってきた。その内容は。
「やはり、NTT側指定の業者が行なった基礎工事でないと光ファイバ敷設は無理」
という衝撃の内容であった。では、あの何度も行なった打ち合わせはなんだったのか? 打ち合わせに入る前に一言言ってくれれば、その後の作業は無駄にならなかったのに? と正直かなりカチンと来た。
よくよく話を聞いてみると、NTTが光ファイバ敷設を依頼する下請けの業者が「光ファイバを敷設したことのない業者がやった基礎工事で、光ファイバが引けるか!」とごねているらしい。そのため、実際の打ち合わせ時(こちらはNTT本体の工事担当が来ていた)には、そういった話が出てこなかったようだ。冷静に考えてみれば、光ファイバ敷設の黎明期のような時期に、工事を安く上げたいからと無茶な注文をしてしまった筆者も筆者なので、これを初めて聞いた下請け業者側としてはもっともな反応と言えるのかもしれない。実際に基礎工事を独自にやりたい側と、実際に光ファイバを敷設する下請け業者が直で話せていればもっと早期に解決できていた問題なのだろう。
と、愚痴を言っていても始まらないので、今度はこの下請け業者に同じ工事内容での見積もりを取ってもらった。額がそれなりの線に収まればそのまま発注してしまうつもりだったからだ。しかし、上がってきた見積もりを見てこれまた愕然。そこには知り合いの電気屋でとった見積もりの数倍の額が書かれていた。しかも、その見積もりの詳細は「材料費・作業費・人件費」といった項目名が並んでおり、筆者はあきれてしまったのを強く覚えている。
工事業者の間ではどうか知らないが、一応管理組合が管理する金の中から工事を発注しようとしているわけで、当然発注者である筆者には管理組合に対する説明責任があるし、どういった要素にどのくらいの金がかかったのかを把握しておく義務がある。材料費1つとってもどういったものをどの程度使うのかは(発注者本人が建材に詳しいかどうかは別として)明示するべきだし、人件費も何人を何日間動かして一人頭いくら払うのかくらいはちゃんと明記するべきだ。
結局、この見積り額が管理組合長の裁量で動かせる額を超えていたこと、同時期に駐車場の権利を管理会社から買い取る話があってまとまった金が必要だったこと、導入土壇場でひっくり返されたことで筆者本人のやる気がかなりなくなったことなどの理由が重なって、3年前の光ファイバ導入は完全に頓挫することと相成った。
■ 3年前とは状況が違う! 入居者の後押しを受けて再度光ファイバ導入に挑戦!
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こ、こ、この地下鉄工事さえなかったら、夢の光ファイバライフを送れていたはずなのだ! 地下鉄が通るのはありがたいが、正直恨めしい
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結局、その後しばらくの間はADSLを使った通常のインターネットライフを楽しんでいた筆者だが、周りはズンドコ光ファイバを導入していく中、基地局から3km超という経路長のおかげで速度の上がらない我がマンションという現実を突きつけられてかなり鬱屈していた。しかし、そんな中久方ぶりに管理組合に呼び出されていってみれば「入居者から、うちのマンションに光ファイバは入らないのか? という問い合わせが来ているので、もう1回やろう」という話が振って涌いたように飛び込んできた。
筆者のマンションは法人が入居者の6割近くを締め、その中でも一番多いのはアパレル業、その次に多いのは実はデザイン・設計事務所だったりする。で、ここ最近はDTPやCADの普及により、こういったデザイン・設計事務所はインターネット経由で入稿データをやり取りすることが非常に多いのだ。DTPであれば、たとえば特集24ページ分の印刷用データはCD-R丸々1枚分のデータ量を持っており、これが雑誌1冊分ともなればDVD-R丸々1枚で足りるかどうか微妙なラインだったりする。これだけ大容量のデータをやり取りするとなれば、1分1秒を争う雑誌製作の現場では光ファイバの導入ということに行き着くのも当然の話だ。
さらに話を聞いてみると、今回はかなりの数の入居者から要望があったらしく、予算は業者の言い値でも何とかするから、マンション出入りの業者と組んでさくっとやってくれという太っ腹なお達し。
早速、3年前に連絡を取っていたNTTの担当部署へ連絡をし、3年前に構築したプランを元に光ファイバ敷設のための基礎工事を開始、さっくりと光ファイバが導入される! ……はずだったのだ。この記事を書いている10月21日現在、筆者のマンションには基礎工事+マンション構内の光ファイバ敷設は終わっているものの、大本の光ファイバの敷設が始まらないというなんとも奇妙な状況になっている。NTTによれば、なんとか11月には工事を終わらせたいということなのだが、実際にいつ光ファイバが使えるようになるかはまだ不透明である。
次回の最終回では、光ファイバを昭和40年に建てられたマンションにどのように敷設したのか。そして、マンションタイプではなくベーシックタイプまでにらんだ光ファイバの敷設をどのように行なったのか。さらに回線速度が上がって筆者が幸せになれたのか! 最後の総まとめとしての記事をお送りしたい。
(つづく――光ファイバが開通し次第、続編をお送りします)
2004/10/21 16:03
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戸塚直太郎 PC雑誌業界を流れに流れ、今やフリーランスのPCゲームライターに落ち着いた27歳。「そろそろ真人間に戻ろう……」と思いつつも、寝るのは3時4時が当たり前。何をやっているかと言えば、IRCのログに目を通しながら5人と同時にMSN Messengerで会話しつつ原稿を書くという、激しく能力の無駄遣いをしている気がする今日この頃。FPS専門ゲームサイト「ukeru.jp(http://ukeru.jp/)」を運営しつつ、新人PCゲームライターを育ててます。 |
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