前回の最後で予告した通り、筆者のマンションにも光ファイバが敷設され、やっとブロードバンド貴族としての道を歩み出すことができた。お約束通り、3回目にあたる今回は昭和44年築の13階建てという、光ファイバを引くにはいかにも条件の悪そうなマンションの10階にある筆者宅にいかに光ファイバを引いたかをお話ししていこう。
■ 電話線でギチギチな管路。これじゃ光ケーブルが入る余裕もない
通常光ファイバをマンションに引く場合、大きく分けて2種類の方法がある。1つはVDSLを使い、すでに敷設されているメタル回線を使ってマンション内の各居住区分へと回線を引く方法。そして、もう1つはマンション内LAN回線を使って配線する場合だ。
筆者のマンションの場合、LANなどという気の利いたモノがある時代に建てられたマンションではないので、通常は、マンション地下に設置されているMDFまで光回線を引っ張り、そこから先はVDSLを使う前者の方法を使うことになる。しかし、「その2」で書いた通り、筆者のマンションに多く入居しているデザイン・設計事務所から「ADSL回線が遅いから光ファイバを入れられるようにして欲しい」という要望が上がったのが光ケーブルの導入発端だ。
そうした状況で、100Mbpsの回線を入居者で分割するVDSLを“導入が簡単”という理由だけで入れてしまっては、導入を推進した管理組合理事以下関係者がつるし上げを食ってしまう。ということで、「マンションの各戸に光ケーブルを引き、ベーシックでもOKな環境を構築する」ことを目標に5月中ごろからNTTとの交渉に入った。
では、どのように各戸に光ファイバを引くのか、ここが大きな問題となった。一戸建てやアパートに光ファイバを引く場合、一般的には電柱を伝ってファイバ線を引き、エアコンのダクトなどを使って屋内へと引き込む。しかし、この方法で引き込みが可能なのは4階までの高さがせいぜいで、13階という地上から約30mはあるような高さまでケーブルを引くのは無理である。
高さから引き込みが難しい場合、マンションの外壁にパイプを設置し、その中に光ファイバを通して各家庭へ直接引くパターンがあるようなのだが、「その1」でも書いたように筆者のマンションの前は地下共同溝となっており、そもそも電柱がない。また、光ファイバを引き込む場所も地下のゴミ捨て場に設置されているMDFまで電話引き込み管を伝わってくることになる。従って、外壁にパイプを設置したとしてもマンションの地下から地上に向かって穴を掘って光ファイバを出すということになるので、この方法はあまり現実的ではない。
それではということで、MDF近くにPremises Terminationと呼ばれる装置(引き込まれた光ファイバを集合住宅内の光ファイバと接続する装置)を設置し、従来の電話管を経由して各家庭に直接引き込む、という話になった。
さっそく電話管路が空いているか調べたのだが、見込みが甘かった。筆者のマンションは全部で72戸あるのだが、各居住区分に1本ずつの電話線ならばまだギリギリ通る位の余裕はあるはずだったのだ。しかし、ISDN、ADSLと電話回線の普及は進み、各居住区分が2回線ずつ引いているケースも多かったため、特に下層階の管路はギチギチで電話ケーブル1本通る隙間もなかった。ちなみに余談ではあるが、この工事のために各階の電話管路を調査してみたら、上下階で居住区分を確保していた事務所がなんとLANケーブルを電話管路に無断で通していたことが発覚したりもした。
また、冷静に考えれば各戸に光ケーブルを引けるようにするためには既存の電話管路を使ってしまっては駄目だ。最初のうちはいいにしても、後から申し込みをした入居者が引けなくなってしまっては意味がないからだ。
そんなこんなで多くの制約がある中、NTTの工事担当者とマンションの設計図を見ながら何度かの折衝を行なった結果、現在では使われていないダストシュートが地下から12階まで通っていることがわかった。さすがに30メートルもの落差でゴミを落とすのは現実的ではないと見えて、筆者がこのマンションに来た20年前の時点で既に使われていなかった設備だ。MDFが設置されている地下ゴミ捨て場と各階のメインホールをつなぐ構造となっているので、光ケーブルを引くために使うにはもってこいというわけだ。
■ 中継器を使い、72戸すべてに光ファイバを引くことが可能に!
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地下のゴミ捨て場に設置されたPremises Terminationの親機。明治通りから引き込まれた光ファイバはこの親機にいったん設置され、左壁面のダストシュート内へと引き込まれていく
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6月中旬に光ファイバの敷設計画が決まってからあとは早いもので、その後の展開はトントン拍子に進んだ。マンション全体への設置方法は以下のように決めた。
- マンション全体への光ファイバ敷設はダストシュートを使う
- 地下ゴミ捨て場へ入っている電話引き込み管から光ファイバを分岐させる
- Premises Terminationを地下、4階、10階に設置し、地下から4階と10階へ太い光ファイバを設置する。4階のPremises Terminationは1-6階、10階のPremises Terminationは7-13階の入居区分に対して光ファイバを引く起点とする。
- 実際の導入は各入居区分ごとにやってもらう形になるが、基本的にはダストシュート出口から各階IDFに光ファイバを引き込み、各入居区分の電話管路に入れる。
まずは、NTT側から光ファイバ敷設際してマンション側が工事をしなければならない事項(Premises Termination設置用の板を壁に取り付けたり、ダストシュートのふたを改造してPremises Termination設置階からダストシュート内を通して光ファイバをほかの階へ引くためのパイプを設置したりなどの基礎工事)をプランニングしてもらい、マンション出入りの業者に工事発注。このマンション側の工事が8月の中旬、次はNTTへの光ファイバ敷設依頼だ。
Premises Terminationの設置や光ファイバの敷設はNTT側に依頼するわけだが、この工事はNTTにマンション側工事の完了を伝えてから約3週間後の9月上旬に行なわれた。3年前に工事業者の都合で打ち合わせをしつつもできなかったときに比べれば、驚くべき速さになったと言っても過言ではないだろう。
おまけに、3年前と今で大きく変わったことが1つあった。それは、光ファイバ自体の性能が3年前に比べて大きく向上したことで、筆者のマンションのような古いマンションの電話管路でも光ファイバを通せるようになったことだ。3年前の光ファイバだと、90度直角に曲げるような真似はまずできなかったし太さも桁違いだった。しかし、今の光ファイバは当時より細くなっており、かなりの角度まで曲げてもちゃんと信号が通る。以前だったら間違いなく壁に穴を開けて家庭内に引き込む必要があっただけに、電話管路が使えるようになったことは素直に喜べる話なのだ。
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ダストシュート内へと引き込まれた光ファイバは、保護のための管に入れられて10階へと引き上げられる
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引き上げられた光ファイバは、ダストシュートにあけられた穴を使ってマンション内へと引き込まれ、4階と10階の各中継点に設置されたPremises Terminationへと入る
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Premises Terminationからは家庭内へ引き込むタイプの光ファイバに変換され、IDF内へと引き込まれることになる
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3年前の光ファイバだったら、こんな風に壁に沿って90度に曲げることや、IDF内への引き込みは無理だったろう
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Premises Termination下の蓋はもともとダストシュートの蓋だったもの。中継点のある4階と10階を除く各階では、ここから光ケーブルがマンション内へと引き込まれる
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自宅内への引き込みの様子。家庭内の情報コンセントのメインパネルへと光ファイバは引き込まれ、そこからONUへと入ることになる
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■ またもや大どんでん返し! 最後の最後までトラブル続きの光導入
そんなこんなで工事は進み、地下をはじめとする各階にはPremises Terminationが取り付けられ、ダストシュート内には回線が引かれ、我が家にはONUが設置され、ここまでは滞りなく進んだ。その進みっぷりは工事をしていたNTTの担当者の口から「今日中にマンション内への引き込みから何から一切合切終わらせて、お客さんのところを開通させますよ」との発言が飛び出すぐらい順調だったのだ。
し・か・し、すんなり行ってはブロードバンド百景の原稿にならないわけで、当然のようにここで大どんでん返しのトラブルが待ち受けていた。「その2」の最後の方に掲載された、地下鉄工事の写真を覚えている方もおられると思うが、それのおかげで大トラブルが起きてしまったのである。
マンション前の明治通りが地下埋設溝になっているのはこれまで書いた通りで、これとマンション地下のゴミ捨て場にあるMDFが電話引き込み管で接続されている。この管には何種類かあって、そのうち1本を大元の光ファイバが通って来るわけだが、なんとこの光ファイバを通すための管が地下鉄工事のおかげで潰れてしまっていたのだ。
こうなると、その潰れてしまった管が埋まっている道路を掘り返して、潰れた管を交換しなくてはならない。このため、事態は道路工事という大規模な話になってきてしまったのだ。幸いなことに、この区分の管理はNTTが行なっているようで工事代金はNTT持ちということになった。これでこの道路工事までマンション側持ちとなったら、予算がいくらあっても足りないところだったろう。しかし、この工事に入るまでがまた長かったのだ。
現在マンション前の明治通りは地下鉄13号線の工事が行なわれており、すぐには工事に入れないということで、これまた待ち期間が発生してしまった。NTT側によれば、まず工事申請を東京都へ提出し、東京都の認可が下り次第、工事日程の調査に入るとのことだった。ところが、この工事日程の調整が、状況を聞いているうちに非常にお役所仕事的な雰囲気を感じるやり方となっていることがわかったのだ。
この調整、関係者の代表が1カ月に1回集合して工事日程を調整するそうで、9月の会議は終わってしまったので、10月の会議で工事日程の調整を行なうことになったという。やむを得ないこととは言え、ここで丸々1カ月以上待たねばならない羽目になってしまった。
さらに、NTTからは9月の下旬に上記の話を伝えてきたきり連絡がない。管路陥没という予想もしていなかった状況だし、ある程度今後の流れは伝えてあるので、あらためて連絡の必要がないという考えはわからないでもない。しかし、筆者の側とすれば予想もしていない状況にただでさえ不安になっている上、今回は個人ではなく管理組合を背負って導入の打ち合わせを筆者が請け負っており、管理組合に対する説明責任もあり、筆者としては情報を欲するわけだ。これまで重ねてきた打ち合わせでそういった状況はお話ししてあったので、まるまる1カ月連絡なしというのに不安が募ってしまった。結局、陥没した管の交換工事の予定チラシが配られたのを見て、「どうなっているのか?」とこちらから連絡を取った。
陥没した管の交換工事はチラシによれば10月30日の深夜に行なわれる予定だったが、この日はあいにく大雨。翌朝、工事予定の道路を見ても工事を行なった様子がないので雨による延期を行なったのだろうと判断して、次の工事予定日の連絡を待っていたが、連絡は来なかった。延期の連絡もないので不安に思っている最中、1週間後の11月7日に工事が行なわれることが、これまたチラシで通知された。こちらはどうなったかとずっと気を揉んでいるわけで、決まったなら決まったと電話1本入れてもらうことはできないのだろうか。
11月7日はまたもや雨だったので工事の実施を危ぶんだのだが、翌朝見るとどうも工事をやったような形跡が。その3日後、11月10日になってやっとNTTから電話連絡があり、「これから埋めた管に光ケーブルを通す工事の申請を出す。予定は20日前後」とのことだった。こうした工事については素人なので、素人考えかもしれないが、陥没管の交換工事の予定がわかったら、それに合わせてケーブルを引くように工事調整をすることはできないのだろうか。ともあれ、陥没管の工事終了が確認でき、マンションへの引き込み工事が20日前後に行なわれることになった。
ところが、その20日に工事が工事が行なわれたかというとこれまた行なわれなかったのだ。工事が急遽18日に早まった(10日の電話の時点で20日より早まらないのか? というやり取りをしていたために早まったのかもしれない)のだが、これまた雨にぶち当たったのだ。もう、運が悪いとしか言いようがない。これで工事はまた1週間延期である。さらに、この延期に関してもまったく連絡がなく、筆者もこの時点でさすがに怒った。天候や事務的な面で遅れるのは、事情があるゆえ理解もできるし、説明のしようもある。文書による通知などは必要ないが、連絡先として筆者の携帯電話番号も教えてあるし、これまでも何度か電話をくれているのだから、「雨によって延期しました。次の予定日は**日です」という連絡の1本くらいくれてもいいのではないかと思ったのだ。
そんなこんなで、結局、開通したのは11月30日。終わってみれば、9月初旬に基礎工事をやってから約3カ月も経過していた。
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地下共同溝の蓋を開けたところ。雨によって中に水が溜まっている
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共同溝の工事から写真左下のマンホール部分の間に、光ファイバが通るはずだった管路が埋まっている。これを掘り返して埋設し直すわけだ
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■ めでたく開通! ブロードバンド貴族へ成り上がれるか?
ということで足掛け3年、途中筆者が戦意喪失していた期間を除けば1年半にも及ぶ光導入計画はこうして終了したわけだ。
ちなみに、今現在ならUSENやらTEPCOひかり、KDDI光プラスなど似たようなサービスは多々あったのだが、なぜNTTにしたのかというと、これにはいくつかの理由がある。1つは、プロバイダーの選択肢が多かったこと。すでにADSLなどを使って仕事をしている事務所が多く入居しているため、一方的にプロバイダーを制限するような状況にはしたくなかったのだ。2つ目は、Bフレッツ以外の窓口に話を持って行った際に、VDSL以外の選択肢を提供してくれなかったこと。冒頭にも書いたとおり、100Mbpsの共用なんてまっぴらごめんだったので即座にこれは却下した。そして、3つ目は、なんだかんだと言って回線品質の維持などを考えるとNTTという企業への安心感があったことが、Bフレッツを選んだ理由だ。
さて、実際の回線速度だが以下のようになった。
フレッツ・スクウェア:約83Mbps
BNRスピードテスト:下り45.573Mbps/上り2.36Mbps
下りに関しては50Mbps近くとそれなりの速度が出ているのに対して、上り速度が低すぎるような印象がある。実際同じプロバイダーを利用している友人のFTPサーバーにファイルをアップロードしてみると、スループットは約30Mbpsほどは出ていたので、回線自体の問題ではなさそうだ。とは言っても、ADSL時代の下り3Mbps上り400kbpsという速度と比べれば数倍以上の速度が出ているので、プロバイダーの変更やルータの調整でもう少し速度は出ることだろう。今後はそのあたりが課題となりそうだ。
■ 参考データ
居住地区 | 東京都渋谷区 |
接続事業者 | NTT東日本 |
回線の種類 | FTTH(Bフレッツファミリータイプ) |
プロバイダー | DTI |
スループット | 約45Mbps(BNRスピードテストで計測) |
■ URL
NTT東日本 フレッツドットコム
http://flets.com/
DTI
http://www.dti.ad.jp/
2004/12/09 15:14
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戸塚直太郎 PC雑誌業界を流れに流れ、今やフリーランスのPCゲームライターに落ち着いた27歳。「そろそろ真人間に戻ろう……」と思いつつも、寝るのは3時4時が当たり前。何をやっているかと言えば、IRCのログに目を通しながら5人と同時にMSN Messengerで会話しつつ原稿を書くという、激しく能力の無駄遣いをしている気がする今日この頃。FPS専門ゲームサイト「ukeru.jp(http://ukeru.jp/)」を運営しつつ、新人PCゲームライターを育ててます。 |
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