Broadband Watch logo
バックナンバー

その116「DLNAの仕組み」
[2007/03/26]
その115「ドメインとActive Directory」
[2007/03/19]
その114「ワークグループができること」
[2007/03/12]
その113「WPSの仕組み」
[2007/03/05]
その112「Gopherの生い立ちと現在」
[2007/02/26]
その111「Wikiの使われ方」
[2007/02/19]
その110「文字コードとは」
[2007/02/05]
その109「IISの生い立ち」
[2007/01/29]
その108「NASの登場と一般への普及」
[2007/01/22]
その107「HomePNAのいろいろ」
[2007/01/15]
その106「Ogg Vorbisの成り立ち」
[2006/12/25]
その105「MIDIの原理とSMFの構造」
[2006/12/18]
その104「AIFFの構造」
[2006/12/11]
その103「WAVの構造と現状」
[2006/12/04]
その102「WMAの歴史」
[2006/11/27]
その101「AACの特徴」
[2006/11/20]
その100「MP3/MPEG Audioの仕組み」
[2006/11/13]
その99「HSDPAの仕組み」
[2006/11/06]
その98「H.264・MPEG-4 AVCの特徴」
[2006/10/30]
その97「IEEE 802.16e(モバイルWiMAX)の特徴」
[2006/10/23]
その96「TIFFの特徴」
[2006/10/16]
その95「PNGの現状と今後」
[2006/10/02]
その94「GIFの構造」
[2006/09/25]
その93「10GBASEの種類(2)」
[2006/09/11]
その92「10GBASEの種類」
[2006/09/04]
その91「GbEのいろいろ」
[2006/08/28]
その90「JPEGの特徴」
[2006/08/21]
その89「DivXの広がり」
[2006/08/07]
その88「MPEGの仕組み」
[2006/07/31]
その87「WMVのこれまで」
[2006/07/24]
その86「AVIの生い立ちとそのコーデック」
[2006/07/10]
その85「QuickTimeの変遷」
[2006/07/03]
その84「Realのこれまでと今後」
[2006/06/26]
その83「ShareとWinny」
[2006/06/19]
その82「DOCSISの仕組み」
[2006/06/12]
その81「SQLインジェクションの流れ」
[2006/06/05]
その80「RSSの動作」
[2006/05/29]
その79「Skypeの仕組み」
[2006/05/22]
その78「BitTorrentの特徴と今後」
[2006/05/15]
その77「Winnyの仕組みと現状」
[2006/05/08]
その76「WinMXの特徴」
[2006/04/24]
その75「Gnutellaの歴史と構造」
[2006/04/17]
その74「Napsterの歴史」
[2006/04/10]
その73「P2Pのいろいろ」
[2006/04/03]
その72「IEEE 802.11nの動向」
[2006/03/27]
その71「ActiveX Scriptingの動作」
[2006/03/20]
その70「Ajaxの仕組み」
[2006/03/13]
その69「DHTMLの動作」
[2006/03/06]
その68「Scriptの定義」
[2006/02/27]
その67「JavaScriptの仕組み」
[2006/02/20]
その66「Javaの動作」
[2006/02/13]
その65「RFCのプロセス」
[2006/02/06]
その64「ActiveX DocumentとActiveX Controlの違いと共通点」
[2006/01/30]
その63「ActiveX Controlの機能」
[2006/01/23]
その62「ActiveXを構成するもの」
[2006/01/16]
その61「Cookieの仕組みと用途」
[2005/12/26]
その60「malwareとその分類」
[2005/12/19]
その59「rootkitの動作」
[2005/12/12]
その58「CSSの役割」
[2005/12/05]
その57「HTMLの変遷」
[2005/11/28]
その56「PONとその種類」
[2005/11/21]
その55「FWAの仕組み」
[2005/11/14]
その54「DoSとDDoS」
[2005/11/07]
その53「SNMPとMIBの動作」
[2005/10/03]
その52「Jumbo Frameとフレームサイズ」
[2005/09/12]
その51「WPA2の仕組み」
[2005/09/05]
その50「WPAとWPA-PSKの違い」
[2005/08/29]
その49「WPAの仕組み」
[2005/08/22]
その48「WebDAVの動作」
[2005/08/08]
その47「OFDMAの仕組みとOFDMとの違い」
[2005/08/01]
その46「OFDMの仕組み」
[2005/07/25]
その45「WiMAXの特徴」
[2005/07/11]
その44「Wi-Fiの役割」
[2005/07/04]
その43「FTPの目的と動作」
[2005/06/27]
その42「UPnPの動作」
[2005/06/20]
その41「ネットマスクの仕組み」
[2005/06/13]
その40「ARPの機能」
[2005/06/06]
その39「DNSの原理」
[2005/05/30]
その38「デフォルトゲートウェイの役割」
[2005/05/23]
その37「MACアドレスの仕組み」
[2005/05/16]
その36「スイッチとその進化」
[2005/05/09]
その35「ルータによるメリット」
[2005/04/25]
その34「ブリッジの原理」
[2005/04/18]
その33「リピータの機能」
[2005/04/11]
その32「IPアドレスのクラス」
[2005/04/04]
その31「ブロードキャスト/マルチキャスト/ユニキャスト」
[2005/03/28]
その30「SMTP AUTHと認証の種類」
[2005/03/14]
その29「Submissionポートとスパムメール対策」
[2005/03/07]
その28「Outbound Port25 Blockingとは」
[2005/02/28]
その27「PGPの仕組み」
[2005/02/21]
その26「PKIと認証局」
[2005/02/14]
その25「公開鍵暗号方式とは」
[2005/02/07]
その24「共通鍵暗号とは」
[2005/01/31]
その23「SSHの仕組みと応用」
[2005/01/24]
その22「SSLの役割」
[2005/01/17]
その21「POP3とIMAP4の違い」
[2004/12/27]
その20「POP3の役割と機能」
[2004/12/20]
その19「SMTPの機能と問題点」
[2004/12/13]
その18「SPIとパケットフィルタリング」
[2004/12/06]
その17「LANの概念とその広がり」
[2004/11/29]
その16「SIPの役割」
[2004/11/15]
その15「プロキシの利用」
[2004/11/08]
その14「VoIPの仕組み」
[2004/11/01]
その13「イーサネットとは」
[2004/10/25]
その12「IP/TCP/UDP/ICMPとは」
[2004/10/18]
その11「DHCPの役割」
[2004/10/04]
その10「MIMOとは」
[2004/09/27]
その9「DMZとその効果」
[2004/09/13]
その8「ファイアウォールとは」
[2004/09/06]
その7「NATとNAPTの違いとIPマスカレード」
[2004/08/30]
その6「VPNとVPNパススルーの仕組み」
[2004/08/23]
その5「無線LANの問題とWEP」
[2004/08/09]
その4「IEEE 802.11a/b/gって何を意味しているの?」
[2004/08/02]
その3「ダイナミックDNSって?」
[2004/07/26]
その2「グローバルIPアドレスとプライベートIPアドレス」
[2004/07/12]
その1「PPPoEって何だろう?」
[2004/07/05]

その97「IEEE 802.16e(モバイルWiMAX)の特徴」


IEEE 802.16eって何?

 「IEEE 802.16e(正確に書けば、IEEE 802.16e-2005)」は、2005年12月7日に「IEEE-SA(Institute of Electrical and Electronic Engineers Standards Association)」によって正式に承認された、モバイル向けのLAN/MAN用規格です。

 IEEE 802.16eというより、「モバイルWiMAX」と書いたほうが通りが良いかもしれません。WiMAXという規格は、以前説明した通り、10~66GHzという高い周波数帯を使った無線の規格です。これを2~11GHz帯に下げた「IEEE 802.16a」、その後登場した複数の規格を再吸収する形で統合された「IEEE 802.16-2004」といった規格もありましたが、ローミングなどのモバイルに必要な機能が含まれていませんでした。

 こうしたものを統合したモバイル向けのWiMAX規格が今回ご紹介するIEEE 802.16eというわけです。そんなわけで、実際にはモバイルWiMAXという通り名で通用してしまいます。


IEEE 802.16eの特徴

 ちょっと名前が長いので、ここからはIEEE 802.16-2004をWiMAX、IEEE 802.16eをモバイルWiMAXとします(WiMAX Forumでも、これらの名称が利用されています)。WiMAXの特徴そのものは、すでにご紹介していますので、ここではモバイルWiMAXが従来のWiMAXと異なる部分を簡単に紹介したいと思います。モバイルWiMAXのSpecificationは、従来のWiMAXとの差を記述する、という形になっています。そこで挙げられている差異は以下の2つになります。

・利用する周波数と変調方式
・ハンドオーバー

 もちろん、これは大雑把な言い方です。2つの差異を説明するだけで864ページものページ数を費やされており、単純な話ではないのですが、ユーザーレベルで考える限り、この2つがメインと覚えておけば十分でしょう。

 まず、周波数の違いについて説明します。WiMAXは(WiMAXのSpecificationそのものというよりも、WiMAX Forumでの取り決めにより)3.5GHz/5.8GHzの2つの周波数を利用することになっていますが、モバイルWiMAXは2.3GHz/2.5GHz/3.5GHzの3つが“Initial Profile”という形で示されました。

 このうち、2.3GHzは韓国でサービスが行なわれるモバイルWiMAXベースの「WiBro」のために用意されたものです。一方、2.5GHzと5.8GHzは「すでに多くの国で移動/固定の無線サービスのために利用されている」という理由で追加されました。他に3.3GHzと3.5GHzもモバイルWiMAXのターゲットとなっていますが、これらはあとからプロファイルに付け加えられる形になる模様です。WiMAX Forumではとりあえず、この3つの周波数をターゲットに、機器の検証や相互運用性の確認テストなどを行なっていくとしています。

 変調方式としては、WiMAXが「OFMDA」を採用しているのに対し、モバイルWiMAXでは「Scalable OFDMA(SOFDMA)」と呼ばれる方法を採用しています。このScalableとは何か? という話をちょっと説明しておきます。


図1:OFDMAの周波数分布(3サブキャリアの例)
 図1は、OFDMAの回の図8として示したものです。3つのサブキャリアが、1つのチャネルを共有する構図です。モバイルWiMAXの場合、なにしろモバイル用途で利用するわけですから常に同じチャネル幅になるとは限りません。

 実際、モバイルWiMAXのチャネル幅は1.25MHz/5MHz/10MHz/20MHzと複数が用意されており、しかも移動が絡んでくるとなると、例えばある地点では20MHzの幅が使えたのに、移動して別の地上局にハンドオーバーしたら、そこは5MHzだったという可能性もあるわけです。こうしたときに無理矢理、20MHzの帯域を使おうとしたら混乱が生じるので、チャネル幅は5MHzに落とさないといけません。しかし、だからといって信号の間隔を無理やり狭めたら、今度は通信が成立しなくなります(図2)。


図2:バンド幅が小さかったら

図3:正しいアプローチ
 正しいのは、チャネル幅に合わせて信号を間引くことで、サブキャリア信号同士の間隔を一定に保つ(図3)方法で、こうした形でチャネル幅に合わせて信号の送信数を変化させるのがSODFMAと言うわけです。当然ながら、こうして信号を間引くと転送速度そのものは低下しますのが、これはモバイル向けということで許容されるわけです。むしろ、無理に帯域を確保しようとして繋がらなくなるよりも、速度が落ちても確実につながる方が好ましいと言えるでしょう。

 もう1つの特徴のハンドオーバーですが、これはもう言うまでもなく、複数の基地局の間でシームレスに接続を切り替えるための技術です。モバイルWiMAXではHandoffと呼んでいますが、Specificationでは「Hard Handoff(HHO)」、「Fast Base Station Switching(FBSS)」、「Macro Diversion Handover(HDHO)」という3種類の方法が規定されています。メインになるのはHHOで、FBSS/HDHOはオプションという扱いですが、このHHOを使った場合でも、適切なテクニックを使うことで切り替え時間は50ms以内に収められる、というのがWiMAX Forumの主張です。


その他の特徴

 以上の説明は、IEEE 802.16eで規定されている部分ですが、これだけではモバイルWiMAXを実現するには不十分です。そこでWiMAX Forumでは、モバイルWiMAXのためにいくつかの追加機能を入れました。

 まず大きいものはPower Managementの機能です。適切な省電力機構を追加しないと、あっという間にバッテリー切れとなってしまうため、これはモバイル向けには必須の機能です。WiMAX Forumは、「Idle Mode(定期的に自分がアクティブであるBroadcastは行なうが、特定の基地局とリンクを構成しない状態)」と、「Sleep Mode(Broadcastを行なわない省電力状態)」を定義し、上位アプリケーション(例えばOSのパワーマネジメントとか、WiMAX制御プログラムなど)で、これをコントロールできるようにしました。

 また、セキュリティの拡張として、キー管理プロトコルを用意し、通信の秘匿性確保を図っています。このほか、変わったところでは、スマートアンテナと呼ばれる、複数のアンテナを利用して指向性を持たせたり、帯域を確保したりする仕組み(このあたりはMIMOに似ています)や、マルチキャスト/ブロードキャストサービス(いわゆる同報サービス。理屈としてはこちらで説明したものと同じです)といった項目も、WiMAX Forumが定めるモバイルWiMAXの仕様に含まれています。


離陸する? モバイルWiMAX

 こうしてみると良いことづくめのモバイルWiMAXですが、時速120km程度の移動までを考慮しており、モバイル用途には向いている反面、カバーレンジはだいぶ縮小されます。

 WiMAXが最大で半径50km、現実的には半径10km程度の範囲を1つの基地局でカバーできるのに対し、モバイルWiMAXでは半径2~3kmとなっており、単純に面積比で言えば10分の1以下となります。逆に言えば、WiMAXと同じだけの範囲をカバーするためには、10倍の基地局が必要になる計算になります。もっとも現在の携帯電話の場合、カバーレンジは半径1km以下がほとんど(これは場所によって異なり、都市部の密集地帯では半径500m程度、地方部の郊外だと半径5km程度と大きく差があります)なので、「現在の携帯電話と変わらない」という捉え方もあります。もちろん、現在の携帯電話ほどに密度を高く基地局を設置する必要はないにせよ、サービスを立ち上げるためにはそれなりに基地局に投資をしないといけないのは間違いないところです。

 とはいいつつも、例えば日本においては2006年7月以降に利用可能になった2,535MHz~2,605MHzの周波数帯をモバイルWiMAXに割り当てることを検討するなど、事態は前向きに進んでいます。通信事業者では、各社がサービス開始に向けて作業を進めています。また、機器メーカーではインテルが非常に強くWiMAXを推進しており、どんな形に展開していくかはまだ見えない部分は残っているものの、基本的には進展しています。

 見えない部分、の1つには冒頭に出てきたWiBroが絡んでいます。イー・アクセスは今年5月にWMC(WiBro モバイルWiMAX Community)に参加を表明しており、場合によっては国内でもWiBroという形でサービスを開始する可能性があります。ただし、WiBroとモバイルWiMAXはきわめて近い関係にあると言っても、相互運用性があるわけではないので、このあたりの動向が見えてくるまで、もう少し時間がかかりそうです。


2006/10/23 10:54

槻ノ木 隆
 国内某メーカーのネットワーク関係「エンジニア」から「元エンジニア」に限りなく近いところに流れてきてしまった。ここ2年ほどは、企画とか教育、営業に近いことばかりやっており、まもなく肩書きは「退役エンジニア」になると思われる。(イラスト:Mikebow)
Broadband Watch ホームページ
Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.