今回ご紹介するのは「WMA(Windows Media Audio)」です。名前の通り、Microsoftが提供する音声コーデックで、原稿執筆時点で最新版はVersion 9.2になっています。このWMA、圧縮技術の詳細やプロトコルなどは一切公開されていません。しかし、大雑把に言ってMP3と同程度を維持した場合、ビットレートを最大で半分程度まで落とすことが可能だといわれます。
プロトコルなどは公開されないと書きましたが、WMAを取り扱うための「SDK(Software Development Kit)」は無償で公開されており、結果として非常に多くの製品がWMAに対応しました。ストリーミング配信にも対応しており、Webラジオなどの用途で広く利用されています。また、著作権管理機能を標準で搭載しているため、音楽配信などにも利用されています。
■ WMAの歴史
Windows Media Audio(以下、WMA)が初めて登場したのは、1999年4月のことです。このとき、Microsoftは「Windows Media Technologies」と呼ばれる新しい製品群を発表しました。コンテンツ生成用の「Windows Media Tool」、配信サーバーである「Windows Media Server」、それに再生用クライアントである「Windows Media Player」の3つが目玉なわけですが、この中で音声フォーマットとして発表されたのが「WMA 4.1」です。
ストリーム配信に関しては、クライアントとの帯域に合わせて複数のビットレートから最適なものを選択する「Intelligent Streaming」と呼ばれる仕組みをWindows Media ServerとWindows Media Playerが持っていました。WMA 4.1ではこれに加えて、複数のビットレートをまとめてエンコードするという機能を備えていました。当時、これに相当するものはReal Networks社が提供していた「SureStream」しかなく、これが理由で「Real Video」や「Real Audio」が非常に大きなシェアを握っていたわけです。しかし、WMA 4.1の登場以降は、次第にWindows MediaがReal Networkのマーケットに進出していくことになります。
まぁそうした話はともかく、WMAは発表当初から4.1というバージョンで登場しました。これは、当時のWindows Media ToolがいずれもVersion 4として発表されたため、これにバージョンを合わせたものだと思われます。ちなみにMicrosoftのWindows Media DRM対応コーデックというページを見ると、何故かWMA 4.1は存在せず、代わりにWMA 1/WMA 2という謎のフォーマットがラインナップされています。
この4.1に続くのが「WMA 7」です。これは2000年7月に発表された「Windows Media Player 7」に合わせて、バージョン番号が4.1から7に上がりました。実は、このWMA7の改良点がはっきりしません。エンコードした結果を聴き比べてみると、WMA 4.1と異なった特性を持つことは知られているため、エンコード方法に手が加えられていることは事実です。ただ、例えば圧縮率は概ね同音質のMP3の半分となっており、この観点ではWMA 4.1と違いはありません。Microsoftによる発表も、このときはWMA 7というよりはWindows Media Player 7の新機能に特化した話が多かったのが実情です。
さらに2001年5月、「Windows Media Player 7.1」の発表に合わせ、「WMA 8」が発表されました。このWMA 8では、CD並みの音質を64kbpsで、あるいは同音質のMP3の3分の1のサイズで、といった表現で、WMA 7と比べて圧縮率を上げたことが示されました。同時に音質の改善もなされたとされていますが、この点については、従来と同じ音質ならより高圧縮に、従来と同じビットレートならより高音質になった、と解釈するのが無難でしょう。ちなみにWMA8は、WMA7をベースに改良したと発表されていました。
2002年9月には、「Windows Media Player 9」が発表され、同時に「WMA 9」も発表されます。WMA 9では旧バージョン(WMA 8のことでしょう)と比べ、20%の圧縮率向上を果たしたほか、「VBR(Variable Bit Ratio)」をサポートしました。また、「WMA 9 Professional」と呼ばれる拡張仕様では5.1chのサラウンドをサポート、128kbps以上のビットレートであれば96kHz/24bitの5.1chサラウンドを実現できると発表されています。同時に、可逆圧縮方式である「WMA 9 Lossless」も発表されました。
このWMA 9は、2004年10月に発表された「Windows Media Player 10」のリリースに合わせ、「WMA 9.1」に“こっそり”バージョンアップされます。ただ、このバージョンアップで何が変わったのかは明確になっていません。WMA 9 Professionalは、「WMA 10 Professional」と名前を変えますが、5.1chサラウンドが7.1chサラウンドに進化した程度の違いしか明らかになっていないのが実情です。さらに、2006年10月に公開されたWindows Media Player(英語版のみ)には、WMA 9.2のコーデックが搭載されました。
実際、「Windows Media Encoder」を手に入れれば(Microsoftから無料で入手できます)Webラジオが誰でも可能であり、この際にはデフォルトでWMAが使われるわけです。音楽配信については、すでに多数のサービスがWMAベースで開始しており、iTunesの存在感が大きい故にAACのシェアが高いものの、WMAも健闘しているようです。
Mac OS X上でもWMAは利用できますし、Linux上でも例えばMPlayerがあります。携帯電話でも2002年の「FOMA SH2101V」以降、WMA再生に対応するものが非常に多くなりました。こうした地道な普及への努力が実ってか、WMAは主要な音楽フォーマットの1つとして認知されていると言って良いでしょう。ネックとしては、肝心なフォーマットなどといったエンコーダの心臓部はMicrosoftががっちり握っており、例えばフリーのWMAエンコーダエンジンを作るのは非常に困難なあたりでしょう。